平成23年度 複合系総評

複合系の特徴は、伝統的な学問の枠組みに収まらないような、新しい研究テーマも対象となる点です。本年度に申請された研究をみますと、例えば、認知科学に関係した研究テーマ、生物の形を数理的に扱う研究テーマ、系外惑星の気候を論じる研究テーマ、言語発現機構に関する研究テーマなど、ユニークな研究テーマが見られました。新しい科学の萌芽を感じさせます。その一方で、従来の研究手法で手堅く研究を行うような研究テーマも対象になります。それ故、複合系の審査は、かなり評価が難しいことになります。本年度に申請された研究課題は、どれもレベルが高く、どの研究テーマを採択しても、面白い研究が行われることを予感させました。採択されなかった研究テーマも次年度には採択される可能性がありますので、あきらめないで申請してほしいと思います。以下に、分野別の総評を行います。

  1. 生物関連
    1. 全体的にユニークな研究課題を選んで、果敢に取り組もうする研究計画が多く見られました。
    2. 研究計画書の完成度に、研究経歴の長さで歴然とした差がみられました。特に、学位取得者や博士後期課程の申請計画は研究が申請者自身のものになっていて、それぞれ独創性が強く、優劣をつけるのが難しかったです。反面、博士前期課程の申請計画は研究指導者の意見が色濃く出ていて、申請者の考えが見えにくくなったり、あるいは、研究計画全体の完成度が低いために研究意図のはっきりしないケースが見られました。
    3. 完成度の低い研究計画の多くは、研究目的で掲げた内容と、それを実現するための研究実施内容の整合性が悪かったり、あるいは、研究目的を達成するために様々な研究実施内容を挙げるところまでで、それらの研究内容を基にして研究目的のどの辺までが明らかになりそうか、といった感触がつかめないものなどがありました。
  2. 化学関連
    1. 質の高い申請が増えていて、20%台の採択枠に収まらない優れた研究がいくつかありました。
    2. 平均的には、博士後期課程の学生および職をもつ研究者の申請の質が高く、両者で同等の質である場合は、博士課程の学生のほうに優先権を与えました。
    3. 地域性に富む個性的な研究がいくつかありました。それらが、他からの助成を受けにくいという要件を備えていれば、優先権を与えました。逆に、研究対象が目新しいだけで、研究目的や手法が陳腐なものは、評価が低くなりました。
    4. 申請の動機は、審査の上で重要視されるので、おざなりの型にはまった記述ですますことのないように心懸けてほしいと思います。
  3. 看護関連
    1. 新規性を感じさせる境界領域の研究テーマが散見されました。
    2. 研究の焦点をしっかりさせ、成果が明らかになるような研究計画が望ましいです。中には、その辺の不十分なものがみられたので、今後、留意してほしいと思います。
    3. よい研究テーマの中に、既に本会の助成を受けているものがいくつか見受けられました。残念ですが、全く助成を受けていない研究計画を優先しました。
  4. 人間科学関連
    1. 今年度の申請分野の傾向:複合系のヒトを対象とした研究は、ややのんびりと単純な研究がちらほらあり、また、別に、少しでも、新しい方法論を開発しようという研究や、実験のための実験というよりも日常生活で可能でかつ有効な健康への方法を模索している姿勢が目立ちました。ただ、面白いと思うものは科研費や他の研究費で採択されていることが多く、しかし、メカニズム研究への視点はない場合が多かったです。今回は、面白く、重要で、かつ、適切に科学の新しい手法を取り込んでいる意欲的でかつ現場や患者さんに役立つ研究を選びました。選手のためのトレーニングやスポーツ動作の解析でも、それが、その場だけで終わってしまうのではなく、日常への応用や、他の労働の場面の設定、あるいは、「身体をもつ人間の特異性を引き出すことが有効である」という理解のもとにおいて結果を解析できると思うものの、そのような広い考え方が申請書にない課題ははずしました。広く考えればアイデアもさらに湧き、多くの人々に還元できる研究になるのに、大変もったいないと思います。
    2. ユニークな課題:情報関係の工学技術を駆使した開発は推し進めてほしいと思います が、研究対象とする生体現象が曖昧だったり問題だったりすることも多いので、複合系は、複合的な研究者が問題の方向性をつめないとよい研究につながらない危惧があると感じました。
    3. トピック:運動時の生理反応とサーカンディアンリズム、アフォーダンス理論のリハビリテーション研究への応用、酸化ストレスが筋分化を誘導する機構など。
    4. 今後の申請に期待する研究:複合系の研究をする方々も、対象が生き物(人間も含む)の場合は、やはり生命科学の基礎的理解をしていただき、計画を作って欲しいと思います。
  5. 地球科学関連
    1. 古環境復元に関する研究:本年度の傾向として、堆積物を地球物理的な方法、地球化学的な方法、バイオマーカーによるものの他、微化石、生痕化石、植物珪酸体などを用いて古環境を復元しようとする研究が見られました。ユニークな研究としては、バイカル湖の5000年以降の連続した堆積物に含まれる還元固定元素の化学種を連続的に解明することにより、気候変動などの古環境を復元しようとする研究がありました。
    2. 生活や自然災害と関わる研究:生産性と生物の多様性を両立させる放牧の研究、地下水の利用、火山災害・気象災害など人間と自然との関わりについての研究は例年のように見られました。ユニークな研究としては、飛鳥時代から平安時代にかけての気候風土と人間活動との関係を、野外調査、古文書資料、観測機関による諸データから定量的・総合的に解明し、現在の自然共生型生活のモデルを提示しようとする研究が挙げられます。
    3. 学校教育と関わる研究:今回は学校教育に関わる研究課題はありませんでした。今後の学校教育と関わる研究で期待されるものとして、例えば、学習指導要領に関するものでは、学習指導要領などに示された各教科・科目などの目標と取り扱いの説明などを十分理解して、各自の研究上の位置づけなどを明確にすることが大切だと思われます。また、環境教育については、新教育課程でも一層の充実を図ることが求められているにもかかわらず、現場や研究機関での取り上げ方は低調といわざるを得ません。環境教育の目的やお題目だけにとらわれず地域での実際の自然環境や社会環境を題材とした教材の枠組みやアプローチの仕方に斬新なものが提示されることを期待しています。
    4. その他の領域の研究:研究によっては、野外での実際的調査と資料の収集が欠かせないものがあります。そのような野外調査において着眼点に工夫したもの、仮説に基づいて新しい材料に取り組むもの、地球物理学的な手法を取り入れたものなどが見られました。ユニークな研究としては、沖積平野の地表に現れた諸現象を調査し、活断層系の活動史を解明するとともに、平野の形成過程を明らかにする研究が挙げられます。落雷の岩盤への影響を考えて岩石破壊実験を取り入れ、地形プロセスを扱う研究もありました。
    5. 留意すべきこと:
      (1)単年度でできる範囲のもので準備研究がなされていること
      (2)研究計画の立て方によっては、科研費の応募を検討してみること

複合系選考委員会委員長

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