平成24年度 複合系総評

複合系の場合、さまざまな研究分野から申請があるので、採択研究が特定の分野に偏ることがないように、分野を分けて審査を行っています。総じて、今年度は研究計画のレベルが高く、どの分野も審査が非常に難しかったという印象をもちました。また、今年度の特殊事情として、復興支援の意味から、3.11に関連する研究テーマを優先的に採択しました。以下に、分野別の総評を行います。

  1. 化学分野

    化学に近い分野の申請では、医療材料に関わる課題が多く目につきました。材料として、多くの申請で天然物やバイオマスを採用していることも今年の特徴といえるようです。それぞれ質が高くなっていましたので、それらについては厳しい選考になりました。生体系の機能評価に関わる課題も目につきました。その中には、複合系を選択することが適切か疑わしいものもありました。

  2. 看護分野

    今回の申請の特長をみると、

    1. 我が国が直面している超高齢社会に対応するもの
    2. 3.11で明らかになった地域コミュニティーに関するもの
    3. その他

    に分かれるように思います。

    高齢者の転倒、誤嚥、脳障害後の機能訓練など生活に密着したものが多く、更に、地域の面から、コミュニティーそれ自体のあり方、特に、今日の東北震災に端を発する仮設住宅それ自体のあり方がコミュニティー・ケアの視点から論じられるなど、実学としての研究の側面がみてとれます。単なる研究のための研究でなく、研究によって社会貢献されることは、特に、この複合分野では期待されるものと考えます。

  3. 地球科学・教育分野
    1. 申請分野の傾向
      (1)古環境復元・地史の解明に関する研究(13件)
      本年度は、昨年と同じように、堆積物を地球物理的な方法、地球化学的な方法、地形学的な方法で研究しようとするものの他、微化石、炭酸塩鉱物などを用いて古環境を復元しようとする研究が見られました。
      ユニークな研究として、北海道の神居古たん変成岩の一部が50km深部まで沈み込み、再度地上に現れた履歴を精密に分析して、沈み込み帯内の動的過程をあきらかにしようとする研究がありました。
      (2)生活や自然災害と関わる研究(6件)
      空中写真による土地被覆分類の試案を提示し、山地斜面崩壊地と竹林分布の関係を考察するもの、自然環境の構成要素としての地層の研究を基として、そこでの地域社会の個性を明らかにしようとする研究、里山保全を考えるに当たり、里山保全の効果に加えて里山放棄の影響を学術的に示すための科学的データをそろえようとする研究など、火山災害・気象災害など人間と自然との関わりについての研究は例年のようにみられました。人間と自然に関わる研究の成果は一般社会の中にも受け入れやすいものです。
      ユニークな研究としては、従来のシラス崩壊の研究は、地形・地質の特性と降雨量との関係に基づくのが普通でしたが、さらに地形発達史の視点を加えて、過去の崩壊履歴から将来の予測を試みようとした研究がありました。
      (3)学校教育に関わる研究(2件)
      今回、教育関連テーマの申請は、遠隔地や低年齢層にも利用可能な教育用制御体験システムの開発、臨床工学技士のための自立型学習支援システムの構築という2件のみでした。このうち、前者は、2次元バーコードを磁石ラベルによりボード上に並べて制御命令を入力するというもので、広範な活用が期待されます。
      今後の学校教育と関わる研究で期待されるものとして、例えば、学習指導に関するものでは、学習指導要領などに示された各教科・科目などの目標と取り扱いの説明などを十分理解して、各自の研究上の位置づけなどを明確にすることが大切だと思われます。また、環境教育については新教育課程でも一層の充実を図ることが求められているにも関わらず、現場や研究機関での取り上げ方は低調といわざるを得ないような気がしました。
      環境教育の目的やお題目だけにとらわれず、地域での実際の自然環境や社会環境を題材とした教材の枠組みやアプローチの仕方に斬新なものが提示されることが期待されます。
    2. 留意すべきこと
      (1)単年度で研究できる範囲のもので準備研究がなされていること
      (2)また、研究計画のうち、実施内容の書き方を整理して記載することが望まれます。例えば、サンプリングの採集箇所、数量、そのためのおよその所要時間、あるいは、予定通り進まないときは、手当ての仕方などを含めると良いでしょう。
  4. 人間科学分野

    以前に比べて、的を絞った優秀な計画が増えましたが、目的が重要であっても、方法論の記述がまずく、全体像を読みとれない申請があるのは残念です。

  5. 生物分野

    今年度の申請計画は、研究目的が斬新でかつ計画内容が力作ぞろいで、限られた数の助成対象で残すものを選び出すのに大変苦労しました。多くの研究計画が、僅差で助成を逸しています。以下に、審査で気がついた点を箇条書きにしてみます。

    1. 研究計画書の中には、研究の目的や実際の研究アプローチが狭い専門家にしか理解できない表現になっているものがあります。専門外の人をも意識した研究計画書つくりが望まれます。特に、コンピューターと分子生物関連にそうした傾向が強く見られます。
    2. 魚の低い糖利用率の原因を特定し、糖利用率を向上して、現行の乏しい高タンパク質に依存している魚養殖を豊富な糖利用に変えるという斬新な研究を2011年度の本研究助成で支援しました。前段の低い糖利用率の原因が特定された段階で、東日本大震災とそれに伴う大津波に遭遇して自宅が壊滅し、研究室も被害を受け、集めた資料・データの多くを失いながらも、果敢に研究を進め、今年度は、次のステップである糖利用率の向上を目指した研究計画を作っています。研究のレベルの高さだけでなく、逆境にも負けない精神力に感銘を受けました。

複合系選考委員会委員長

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