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採択情報・選考総評

平成29年度人文・社会系総評

人文・社会系選考委員会委員長

 日本科学協会の笹川科学研究助成に、今年度も若手研究者による多数の申請が寄せられたことは、今後の日本の学問研究の興隆に寄与するものと、おおいに期待するものです。

 今年の申請全体を見渡して、研究の目的や方法を詳細に説明し、自らの研究の現代的意義や方法の新しさをわかりやすく説明している申請、さらに学問的熱意をもった真摯な申請が数多く見られました。ただ、その独自性の説明が一般的でしかなくもっと十分な説明が求められるなど、いくつか気になる点が出てきたのも事実です。そこで、以下に平成29年度申請をめぐって、感想と留意点を記します。

  1. 専門性が充分に深められる研究である必要とともに、その意義がより多くの人に理解できるように書く必要があります。研究のより広い分野での意義や社会性・普遍性の広がりを意識して、専門の異なる評価者にも理解できるように、独自性や意義をわかりやすく説明する工夫が必要です。異なる分野の読者にも、研究の意義や斬新さがわかるように説いてください。
    研究の目的や方法からどのような成果が期待できるのかが、評価者にもわかる説明が十分でない申請書も多くありました。研究室で、自分の視点からではなく、他者の視点から自分の研究がどのように理解されるかを考えて説明することの重要性を、指導教授とともにディスカッションして確認してください。
  2. 研究の目的や問題意識で、独自性・新規性に充ちた問題意識を堅実に深めていく研究を求めています。その意味で、時代の要請を捉えた研究などに良い研究が増えて、テーマが広がっているのは、その新規性の現れと理解しています。
    たとえば、今年では、時代の要請を受けた「ひとり親世帯の居住支援の課題に関する研究~母子生活支援施設退所後の住宅確保のありかたについて~」など、自然災害や困窮状況や自閉スペクトラムなど疾病からの脱却、救済、支援等、社会的課題の分析とその課題解決に関する研究テーマ、さらに、教育学分野のアクティブ・ラーニングに関する研究内容の応募が多く、挑戦性の高い研究が少なからず含まれていたと受け止めています。また「戦後日本の国際社会への復帰と国際経済機関:日本の経済協力「関係開発機構(OECD)への加盟問題と日欧米関係、1961~1964」など、今日の国際状況を受けた、新しい問題や重要なテーマを掘り起こしている独創的な研究がありました。このように、今までにあったテーマに新しい切り口と問題を照射して、着眼豊かな研究に導いている申請も、高く評価されました。若手研究者の独創性に満ちた情熱と日本の学界を背負っていく気概に期待します。
  3. 研究計画について、自分の研究としてスケールの大きい比較研究を持っていていいのですが、本助成のような単年度申請では、焦点を絞る方がよい。つまり、その全体像を示しながらその実施計画としての単年度では、限定され選択された諸地点に焦点を絞り、綿密に調査をおこなって結果を出す方がよい、と考えています。
    また、研究の内容では、研究方法の記述に踏み込んだ説明が必要です。つまり、漠然と研究項目を列挙するだけではなく、その実施方法として、フィールドワークを行うのか、アンケート調査をするのか、研究室で実験をするのか、どのように研究を深めていくか、その具体的なプロセスや研究方法を明示する必要があります。理論研究では、単に図書を読むという方法だけでは助成を獲得する強いインパクトになりません。1次資料や図書発見に向ける資料探索の調査行やプロセスを示して、研究の独自性や新規性、1次性に結びつけて協調する工夫に期待したいと思います。このように、研究内容では、研究項目の他に、調査手段・方法を手順とともに具体的に示すということを意識してください。海外におけるフィールドワークに基づく研究計画を具体的に提案している申請が幾つかあり、その積極性を高く評価したいと思います。その中には、発展途上国における地域住民の生活と環境保全に関する申請など、理念と意義が深く認められるいい研究がありました。考古学の発掘調査や人類学の住込み調査など、外国で長期調査をおこなうときには、「物見遊山」と誤解されないためにも、当該国のカウンターパートや研究協力者、共同研究機関、身分保証機関などを明示しておかれるほうがいいでしょう。
  4. 支出計画では、図書費を漠然と計上している申請が少なくありません。図書館などで閲覧可能と思われる書籍を大量に購入しようとする申請が、21件ありました。その本が図書館などの共用施設で閲覧できる位の一般性のある書物が多数、高額に申請されている場合も少なくありません。これらは評価が低くなります。そこでしか入手できない地方出版物や特殊な出版物など、その書名を明示するなどして、図書資料の購入の必要性を説いて欲しいと思います。アルバイトを使うなど謝金の使用についても、それが本当に必要な助力か十分にチェックされることをお薦めします。基本的に、若手研究者が自ら「汗をかく」研究態度が求められます。
  5. 研究計画や研究内容が立派に書かれていても、また、他では得られない本協会の趣旨にあった「日の当たらない」研究であっても、何に費用がいるのかを明確にしないもの、その必要性が判然としないものは、評価が低くなります。計画実行性に欠ける申請も評価が低くなるので、目的を実行する具体的方法・手続きをしっかり書き込んでください。
    パソコンなど機器の購入は、基本的に研究室や大学が手当てすべきものと考えています。今年も、ビデオカメラなどで98万円も支出しようとする申請がありました。こうした書籍・カメラ・ビデオ・DVDなどへの膨大な支出は、好ましくありません。中味不明の出張・調査も評価が低くなります。このような点から、支出計画を作るときには、調査や研究行為の頻度や場所、所在地、個数、機器の使用、そこに行くことの必要性など、研究計画をもう一度見直し、研究計画と支出計画に整合性や合理性があるかをしっかり確認して、申請して下さい。新聞のCDデータ集に93万円支出しようとする研究、インターネット調査に55万円支出しようとする研究など、偏りある支出計画も、無理がありこれだけで研究が遂行されるとは考えられません。研究遂行上の多岐項目を意識し、多様でバランスの取れた研究遂行を図っていただきたいと考えます。
  6. 支出計画で、もう一つ問題とするのは、学会参加や学会年会費に当てる費用支出です。今年も、33万円というように著しく多い学会旅費を計上している申請がありました。学会参加は、発表するとしてもそれは研究のアウトプット行為であり、インバウンドにも一般的な情報収集の行動であり、研究そのものを構成し創りだす主たる活動や調査ではありません。笹川科学研究助成の人文・社会系の選考委員会では、学会参加費や学会年会費などは、国内・海外を問わず、研究調査の支出項目としては優先度が低いものと考えています。今年も、心理学・人間科学系の申請に、この費目支出を求めるものが多くありました。ここでは、相対的に多くの場合、研究計画に書かれている研究を深める内容と支出が一致しておらず、厳しい採点になったのは残念でなりません。パソコンソフトの購入も研究主題からすれば、周辺的な支出と判断します。研究内容の充実・発展そのものを形作る中心的な不可欠の研究活動への支出を堅実に組み立てていかれることをお薦めします。
  7. 留学生の申請では、自国に帰って自らのテーマとする研究調査を実施する場合、それが単なる「帰国のための方便」(今年7件「お里帰り」とも取れる申請がありました)と解釈されないように、その研究実施の必要性と研究の内容を詳細に説いてください。また、日本でできる研究内容を多く加味して、研究申請を充実させていかれることをお薦めします。
  8. 全体として、女性の研究者の申請が多くなってきていることは、本協会にとって喜びの一つです。私立大学から、「恵まれない」研究機関から、そして外国人留学生からも、さらに数多く申請していただきたいと期待します。
    採択研究全体を見渡して言えることは、研究目的が明確で、実施内容と支出計画が具体的であれば、その研究の特色が理解しやすく、説得性が高まるということです。また、指導教員の研究内容をそのまま分担するのではなく、一人の研究者として独自性を出す努力を必要とする研究計画が散見されましたので、普段から、自分の研究の方向性を明らかにするために、幅広い情報を収集し考察することが重要だと考えます。
    また、優秀な研究内容であると高評価を得ながら、同一分野研究の相対的な順位によって今回採択に結びつかなかった申請もあります。自らの研究内容にいい意味での自負と熱意を再確認され、過去に不採択であっても、自研究の更なるブラッシュアップをほどこし再度申請される学的意欲にも期待したいと思います。

以上の点を留意され、ぜひとも学問的意欲にみち誠実で独創的な研究申請を今後も行っていただきたいと期待します。

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