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採択情報・選考総評

平成29年度海洋・船舶科学系総評

海洋・船舶科学系選考委員会委員長

平成29年度の海洋・船舶科学系への申請件数は196件で、前年度に比べて57件(41%)増えました。最近の数年間は、140件弱の申請で安定的に推移していたのに比べると、大きな変化です。申請者の所属機関数も55機関で昨年の37機関と比べてかなり増えています。例年申請者数の多い上位3機関からの申請数も増えていますが、今年度新たに申請のあった機関が29もあるので、本分野への申請について関心を持つ機関が増えたという分析が出来るでしょう。ちなみに、昨年と今年に共通して申請のあった機関は26で、昨年はあったのに今年は申請がなかった機関は9でした。本研究助成の他の系では大きな変動がなかったか少し減ったのに比べると、喜ばしい傾向ですが、このトレンドがどう続くのか見守りたいと思います。

4年生と修士課程の申請者がそれぞれ15名と78名おり、全体の47%を占めているのは本研究助成の特色を反映しています。研究経験は少ないものの、修士1年生や4年生の申請にも面白い研究計画がいくつかありました。また、外国人の申請にも質の高いものがあり、これもまた喜ばしい傾向と思います。

この系は人文科学から工学まで、海洋・船舶に関する幅広い分野からの応募がありますので、昨年と同様に、先ずは、個別の分野に関する今年度の評価を箇条書きで示し、その後に全般的な総括と留意事項を示します。

  1. 個別の分野に関する総評
    ○人文社会科学系の応募は例年並みの件数ですが、相変わらず、研究計画の熟度のばらつきが大きいとの印象を受けます。今後の申請に期待する研究としては、近年議論が活発になってきているEEZの管理問題や海域の総合的、複合的利用に向けた文理融合型の多面的研究などが考えられますが、申請案件の中にまだ見いだせないのは少々残念です。

    ○海洋物理学関連では、近年精度の向上や計測頻度の進歩が著しい衛星データを用いた研究や、生態系モデルを取り入れた研究が多く見られました。また、海洋観測用ドローンの製作において、最近一般化している技術を海岸近くの観測に用いようとする試みがあって興味を引きました。研究トピック自体は何らかの有意義な成果が得られることが期待できるものの、その研究の基盤となる物理過程や手法について具体的な記述が欠けているため、研究から得られる結果がどういう条件下で得られるものか読み取れない申請もいくつかありました。

    ○生物関連の申請は、分類学、生態学、分子生物学、食品化学等多くの分野にまたがっており、それらに関わる手法についても非常に多岐に亘る申請があったという印象を持ちました。しかし、一部の申請には水生生物を扱っているものの、むしろ一般科学研究部門の方が合致しているテーマがあるようにも見受けられました。また、遺伝子解析に関する申請が多くあり、これが一般的な技術として確立されてきたことが明らかですが、フィールド研究や室内実験と組み合わせて遺伝子解析を行ったり、特定の機能の遺伝子情報の多様性等を明らかにしたりと言う研究申請が多いように思えました。ただ、単に遺伝子の多様性を記述することもよいのですが、できれば、そこからもう一歩その多様性の意味や生態系の機能に迫るような研究にまで踏み込んでもらいたいものです。

    ○地球環境に関する申請では、二酸化炭素に関係した研究において、地球のさまざまな地域を対象に研究が進展している印象をもちました。また、海成堆積物を用いた古環境復元は大きな研究対象ですが、アジアモンスーンやアラビア海での湧昇流変遷など第四期における変化を対象にした古海洋学的研究に加えて、超新星爆発イベント探求を目指したり、27億年前(始生代末期)の大気・海洋環境や生物活動を研究するという、新たな試みが目を引きました。

    ○地球科学関連では、微化石を用いて海成堆積物の年代を知るというのは、古海洋学研究の基本的ニーズですが、最近では各種微化石のスペシャリストが減ってきており、人工知能を用いた自動画像解析技術の向上が求められています。国外での先行研究で、ある程度の成果は上がっているものの、まだ初歩的な段階であり、日本国内では殆ど取り組まれていないのが現状です。今回、この問題に取り組む申請があり、今後の研究の展開を見守りたいと思います。また、資源の研究においては、新しい観点での試みが提案されました。

    ○海洋工学関連の分野では、今日的ニーズを反映して、資源・エネルギー、再生可能エネルギー、地球環境問題、水産資源利用に関わる申請が主なものでしたが、内容的には開発技術、計測技術・調査技術、安全安心の向上に関わるもの、環境負荷低減を目標としたものに纏められそうです。また、バイオロギングやバイオテレメトリーの手法を用いた水産系の研究課題も複数見られました。しかしながら、研究手法の説明がほとんどで、研究目的達成にどのようにつながるかの説明が十分でない印象を持ちました。

    ○従来の考え方に捕らわれず、自由な発想で先端科学技術を海洋・船舶科学系に導入する研究課題を期待します。たとえば、乗用車の自動運転がテレビコマーシャル等で流れていますが、船舶工学分野でも自律航行船が話題になっています。今回、自律航行船に関する申請が複数ありましたが、今後も自律航行船に関する多方面からの申請を期待しています。自律航行船に関する研究において日本が世界的主導権をとり、海運・造船先進国としての地位を築いてほしいと思います。

    ○津波防災のための係留強化に関する実験手法で、独創的な発想によるものがありました。津波を実験的に再現することは容易ではないのですが、発想の転換によって有効と思われる実験方法が提案されています。また、局所的な方向スペクトルを面的に計測して、浅海域における波浪の伝搬・発達過程を明らかにしようとするユニークな研究課題もありました。
  2. 留意事項
    ○本助成は単年度のものです。これまでの研究の経緯があって研究を進めていこうという方針での申請であっても、本助成を受けることで、単年度の期間内に何をどこまで明らかにするのかを具体的に示して下さい。特に、フィールド研究や分子生物学等の時間と費用のかかる分野においては、研究の切り出し方も重要だと思います。

    ○研究目的を達成するために、(1)何を明らかにする必要があるのか、(2)本申請では何を行うのか、を述べる必要がありますが、(1)に触れずに突然(2)の説明に移る申請が多いように思われます。単年度で得られる研究成果は大きくはありませんが、研究目的達成のための位置づけを明確に述べることが説得力につながります。

    ○申請書を審査する人やあなたの研究成果を見る人は、必ずしもあなたの研究分野の研究者とは限りません。ご自身の研究の新規性や海洋科学での位置づけが、「先生からこのようだと聞いた」というレベルでは、残念ながら他者には伝わりません。また、既に行っている研究課題を別の視点から焼き直したような申請もインパクトに欠けます。どうすれば自分の研究にもっとオリジナリティを持たせられるか、自分の研究の位置づけを咀嚼して新規性が謳えるように、先行研究のサーベイをしっかりやっておきましょう。

    ○申請者が若いこともあって、研究の計画に当たって先行研究の調査が十分でない申請がかなり認められました。先行研究調査をもう少し行えば、関連する他分野において同様の課題について進んだ研究があることを見つけられただろうと思われるケースや、先行研究の調査が所属研究室内に留まり発想が制約されていると感じられる申請がありますので、先行研究のリサーチを幅広く心がけるようにしましょう。

    ○いつものことですが、プロジェクト研究において、研究室の役割と個人の研究の境界線をどこに引くかについて、審査員は悩みます。本来研究室のプロジェクトで賄うべき費用が提案書に書かれていたり、研究室のアイデアと申請者個人のアイデアのどちらなのか分からない申請は、高い評価を受けないことが多いことを知っておいて下さい。

    ○申請された研究提案は、現象に関心を持ったもの、課題解決に関心を持ったものに大別できますが、後者については、どのような性能を目標として開発を進めているのか、技術的関心から一歩踏み出して展望を持つ必要があると思われる申請が散見されました。これも、高い評価を受けにくい申請となります。

    ○研究計画を進める上で、基本となる前提条件が明瞭に伝わるような記述があった方が説得力があります。例えば、何らかの数値モデルを用いる研究申請は多いですが、具体的にどういうモデルを考えているかが明瞭に伝わらないと、どういう新しいことが得られるかがわからず、高評価につながりません。既存のモデルを使うことも多いでしょうが、その際にも、どういうことができるモデルか、そのモデルの本質的な部分がわかるような記述が望まれます。
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