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採択情報・選考総評

2018年度人文・社会系総評

人文・社会系選考委員会委員長

 日本科学協会の笹川科学研究助成に、今年度も若手研究者による多数の申請が寄せられたことは、今後の日本の学問研究の興隆に寄与するものと、おおいに期待するものです。

 今年の申請全体を見渡して、研究の目的や方法を詳細に説明し、自らの研究の現代的意義や方法の新しさをわかりやすく説明している申請、さらに学問的熱意をもった真摯な申請が数多く見られました。ただ、その独自性の説明が専門分野に閉じすぎ微細な説明に限られ、より広い社会性や時代性からの説得力や普遍性の付加が求められるなど、いくつか気になる点が出てきたのも事実です。そこで、以下に2018年度申請をめぐって、感想と留意点を記します。

  1.  専門性が充分に深められる研究である必要とともに、その意義がより多くの人に理解できるように書く必要があります。研究のより広い分野での意義や社会性・普遍性の広がりを意識して、専門の異なる評価者にも理解できるように、独自性や意義をわかりやすく説明する工夫が必要です。したがって、研究の独自性や意義の説明は、2段階で叙述するのも一法です。つまり、狭い専門分野での先行研究にはない、自らの研究によって突破し開拓しうる成果を説く。そして、関連する複合領域やより広い社会全般から自分の研究がどのように意義あるのかを説く、という広狭の意義説明の重要性です。
  2.  独自性・新規性に充ちた問題意識を堅実に深めていく研究を求めています。その意味で、時代の要請を捉えた研究などに良い研究が増えて、テーマが広がっているのは、その新規性の現れと理解しています。
     電子テクノロジー(スマートフォン等)の普及、観光開発、新技法のアート作品、定住政策、新しい家畜の導入といった外部からの、または、先進・強大な力からの様々な影響を受ける普通の人々や少数民族の生き方や文化変容を問う、視点の鋭い研究が、特に文化人類学の分野で多く見られました。同様に、経済学、社会学、心理学の分野においても、モバイル・マネー、オンライン・ショッピング、オンライン世界における宗教など、インターネットの普及に伴う新しい研究課題、さらには、iPS細胞研究における「生物的市民権」を問う研究など、時代の流れと共に歩んで課題を捉える研究が認められました。
     もちろん、良い研究とは、新規な対象にとりつけばよいなどといったものではありませんから、今までと同じように、災害復興や中山間地域の活性化等も、重要な課題であり続けています。その意味で、教育学、心理学分野では、アクティブ・ラーニング、LGBTのテーマ化に加えて、学習障害、帰国子女の再適応、性的マイノリティ、自閉症スペクトラムといった最近の持続的な社会問題に対する地道な研究が多く認められました。当該研究分野でトレンドとなっているキーワードを多用しただけの申請は評価が低くなりますし、逆に古典的な枠組みから一歩も踏み出せない申請も評価が低くなります。広い社会貢献や時代貢献にかかわる際に、問題の流れやトレンドを自分の研究の観点から再整理して自研究に再定置し学術ベースに耐えうる叙述とすることを期待します。今までにあった伝統的で継続的なテーマに新しい切り口と問題を照射して、着眼豊かな研究に導いている申請は、高く評価されました。若手研究者の独創性に満ちた情熱と日本の学界を背負っていく気概に期待します。
  3.  研究計画について、自分の研究としてスケールの大きい研究や比較研究を持っていていいのですが、本助成のような単年度申請では、焦点を絞る方がよいと考えています。これに関連して、「期待される成果」では、1年の助成期間内のものではなく、自分の研究全体が成就した際の成果について書いている申請が多く見受けられました。したがって、研究計画では、全体像を示しながらその実施計画としての単年度では、限定され選択された諸地点に焦点を絞り、綿密に調査をおこなって結果を出す方がよい、と考えています。
  4.  研究内容では、研究方法の記述に踏み込んだ説明が必要です。つまり、漠然と研究項目を列挙するだけではなく、その実施方法として、フィールドワークを行うのか、アンケート調査をするのか、研究室で実験をするのか、その具体的なプロセスや研究方法を明示する必要があります。理論研究では、単に図書を読むという方法だけでは助成を獲得する強いインパクトになりません。1次資料や図書発見に向ける資料探索の調査行やプロセスを示して、研究の独自性や新規性に結びつけて強調する工夫に期待したいと思います。このように、研究内容では、研究項目の他に、調査手段・方法を手順とともに具体的に示すということを意識して下さい。
  5.  海外におけるフィールドワークに基づく研究計画を具体的に提案している申請が幾つかあり、その積極性を高く評価したいと思います。考古学の発掘調査や人類学の住込み調査など、外国で長期調査をおこなうときには、当該国のカウンターパートや研究協力者、共同研究機関、身分保証機関などを明示しておかれる方がいいでしょう。
  6.  支出計画では、図書費を漠然と計上している申請が少なくありません。図書館などで閲覧可能と思われる書籍を購入しようとする申請は、評価が低くなります。そこでしか入手できない地方出版物や特殊な出版物など、その書名を明示するなどして、図書資料の購入の必要性を説いて欲しいと思います。アルバイトを使うなど謝金の使用についても、それが本当に必要な助力か十分にチェックされることをお薦めします。基本的に、若手研究者が自ら「汗をかく」研究態度が求められます。往復の旅費交通費だけ突出した料金で申請し、他の研究項目に資する出費を計上していないものも、実現可能性が低く評価されます。
  7.  パソコンなど機器の購入は、基本的に研究室や大学が手当てすべきものと考えています。支出計画を作るときには、調査や研究行為の頻度や場所、所在地、個数、機器の使用、そこに行くことの必要性など、研究計画をもう一度見直し、研究計画と支出計画に整合性や合理性があるかをしっかり確認して、申請して下さい。インターネット調査に60万円支出しようとする研究など、偏りある支出計画も無理があり、これだけで研究が遂行されるとは考えられません。研究遂行上の多岐項目を意識し、多様でバランスの取れた研究遂行を図って頂きたいと考えます。
  8.  支出計画で、もう一つ問題とするのは、学会参加や学会年会費に当てる費用支出です。25万円というように著しく多い学会旅費を計上している申請がありました。学会参加は、発表するとしてもそれは研究のアウトプット行為であり、一般的な情報収集の行動であり、研究そのものを構成し創りだす主たる活動や調査ではありません。笹川科学研究助成の人文・社会系の選考委員会では、学会参加費や学会年会費などは、国内・海外を問わず、研究調査の支出項目としては優先度が低いものと考えています。ここでは多くの場合、研究計画に書かれている研究を深める内容と支出が一致しておらず、厳しい採点になるのは避けられません。パソコンソフトの購入も研究主題からすれば、周辺的な支出と判断します。研究内容の充実・発展そのものを形作る中心的で不可欠の研究活動への支出を堅実に組み立てていかれることをお薦めします。
  9.  外国人留学生からは、今年中国の研究者から数多くの申請がありました。中国からの留学生は、一層、そして他国からの留学生もより多数の申請があることを期待します。採択研究全体を見渡して言えることは、指導教員の研究内容をそのまま分担するのではなく、一人の研究者として独自性を出す努力を必要とする研究計画が散見されましたので、普段から、自分の研究の方向性を明らかにするために、幅広い情報を収集し考察することが重要だと考えます。また、優秀な研究内容であると高評価を得ながら、同一分野研究の相対的な順位によって今回採択に結びつかなかった申請もあります。自らの研究内容にいい意味での自負を再確認され、過去に不採択であっても、自研究の更なるブラッシュアップをほどこし再度申請して欲しいと思います。

 
 以上の点を留意され、ぜひとも学問的意欲にみち誠実で独創的な研究申請を今後も行って頂きたいと期待します。

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