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採択情報・選考総評

2018年度生物系総評

生物系選考委員会委員長

 生物系の場合、共通して生命現象を対象としていますが、アプローチが多岐にわたり、しかもそれぞれが高度に専門化してきており、さらに申請件数が極めて多数のために、採択研究が特定の分野に偏ることがないように、分野を分けて審査を行なっています。

●生理・発生・分子・生化・遺伝などの分野

 今回も多数の熱意のこもった申請を頂き、申請者ならびに推薦者に感謝申し上げます。多くの申請の中から採択課題を選出するのは大変な作業ですが、この助成によって若手の方の研究が新たに推進されれば日本の科学の底上げにつながるという信念をもって読ませて頂きました。意欲的で新規性を持った申請が多くあり、そのなかから少数の採択を決定するために申請書を読むには体力を使います。その中で気付いたことをいくつか申し上げます。特定の分野の専門家のみに通じる専門用語を頻繁につかうと、説得力を失っていく印象があります。また所属研究室で行われてきた研究の延長上にあることが見てとれる申請は、興味深く、かつ成果も期待されるものであっても、新規性、独創性の観点からは評価を下げざるを得ません。広い科学の分野の中での面白さは何かを考えてみましょう。研究者個人の研究を支援するものであり、研究室を支援するものではありません。この研究に関連する内外における研究状況(申請者のこれまでの研究成果を含む。)を記入する欄がありますが、そこで記載された研究については、研究者個人の成果なのかどうかを判別できるように記載することが望まれます。

 新たな切り口を感じさせる申請として、身近な家畜や栽培植物の形質や問題点に着目し、モデル生物で得られた分子機構から演繹して考えられた解析を提案したもの、モデル生物を使って普遍的な原理ではなくその生物が属する分類群に固有の生命現象を追求するものなどが見られました。ナメクジやスズメガなど一般に研究対象とされる事の少ない材料を取り上げたものに、本研究助成の対象として相応しいと思えるものが多くありました。

 次世代シークエンシングを使う研究や、ヒト、家畜、植物の病気との関連で、微生物叢のプロファイリング解析、クオラムセンシング解析を行う申請が多く見られました。ただ手法は新しくても材料選択の妥当性、解析の目的をはっきりさせることができず、個性が出せていないものが散見されました。自らの研究が独創的であるという主張を、根拠を持ってしっかりして欲しいと思います。特定の研究をする理由として「いまだ解明されていない」としている場合が見られますが、これだけでは十分ではないことに留意して欲しいと思います。

 多数の関連する分子の変化を網羅的に捉えて細胞のフェノタイプを統合的に捉えようというシステムバイオロジーの研究提案もいくつか見受けられました。また神経系のネットワークのイメージング解析なども多数のパラメーターを持つ複雑系であり、これらのアプローチは今後のトレンドになることは必至と思いますが、若い研究者の柔軟な思考を駆使して独自のフィールドを作り上げていって欲しいと感じました。

●分類・生態・農・水産学などの分野

 本年度も、マクロ生物分野の応募申請は、例年と同様に学術的に興味のある研究テーマが多く、しかも研究分野も分類・形態・生態・行動・分子解析など、多岐にわたっているという印象を強く受けました。また、申請書類からも、本助成制度の支援対象である若手研究者が活発に研究している様子が強く伝わり、非常に頼もしく思いました。いずれも質の高い研究に関する申請で、選考に際しては選考委員全員が非常に悩みました。残念ながら予算の都合で一部しか採択できませんでしたが、その中でも採択に至った方々の申請は、生物の生き方を観察し、そこに見られる現象を丁寧に明らかにすることが、申請内容から伺えるものでした。
 当該分野を担当した審査委員の多くが感じた中で、全体に共通したのは以下の5つの点です。

  1.  生態学や分類学の分野でも、分子生物学的手法を使った研究アプローチが常套手段となっています。近年は、その手法をより的確に使い、生物の生き方を明らかにする申請が多くなり、現象解析がより深みを増してきた印象を強く受けました。また、特に、本年は細菌同志の共生関係、草本植物の菌根ネットワーク、新規アーケアの培養手法開発、宿主転換を利用した多様性の仕組みの解析などといった新しく、またユニークなものがかなり見られました。
  2.  近年の昆虫関係の申請の傾向として、分子生物学的手法を用いた進化学的視点のものが多くなりました。中でも、特に、今年はアリ類を研究対象として社会性昆虫を題材にしたものが目立ちました。アリ類などは、社会性に進化し陸上生態系の中でもその種類、バイオマスにおいても非常に大きな地位を占めており、重要な分類群であることは確かです。その研究を進める意義は大きいと考えますが、単なる進化や適応だけでなく、生態学的な視点での研究も多くなることを期待したいです。
  3.  例年みられることですが、今年度も単年ではできそうにない申請が多くありました。これらの研究では、目標を絞り込んで研究計画を具体的に記述して説得力を高めて申請する必要があります。中でも壮大なテーマを上げる場合には、申請年度に解明しようとする「副題」を添えるのも良いでしょう。修士課程(2年間)や博士課程(3年間)の研究テーマを上げた際には、全体計画を示して当該年度で明らかにする内容を示すのも一案です。
  4.  応募の動機について、「指導教員からの勧めで」というのが目につきました。大学院生の場合、指導教員の指導の下に研究を進めるのは当然のことですが、本助成では、申請者が主体的に研究を遂行することを期待しています。その観点からも、研究協力者として指導教員を挙げている計画書が少なからずありましたが、申請者独自の視線や考え方に留意していただければと思います。
  5.  研究実施計画が概念的になると、研究経費の内訳も具体性を欠くので注意が必要です。審査では研究計画と研究経費の整合性も検討します。例えば、研究経費の内訳が“分析試薬一式”などと漠然としていたり、観察・実験機材に70万円前後、あるいは旅費・交通費に60~85万円もの高額の経費を申請していたりする例も多く見られました。必要なら仕方ないとも言えますが、限られた経費の配分ですので、その不自然の感も否めません。研究計画との関連性を精査して、注意深く書いていただいた方が良いと思われます。

 
 以下は、各審査委員が感じた個別の印象です。これらは必ずしも全体には当てはまりませんが、今後、研究計画をまとめる際の参考にして下さい。

 DNA解析を用いた研究計画が年を追って増加し、近年は、次世代シーケンサーを用いた研究計画も提出されるようになりました。ただし、優れた解析機器を使って生物のどのような側面を明らかするのかという点について、まだ検討不足のように見える場合も散見されました。

 外来種問題や絶滅危惧種をめぐるテーマを扱う研究計画も増えつつあります。このようなテーマは今後も増加すると思われますが、本財団の助成は生物の研究に対する支援を目的としており、環境問題の解決を主眼にしているわけではないので、この点に注意が必要であります。

 分類や系統についての研究は、近年減少傾向にありますが、やはり生物学の基礎となるものなので、ある程度の研究者がいることは大切であり応援したいと思います。しかし、その一方で、単なる記載分類だけでは研究としての発展があまり望めないので、他の分野との関連を考慮しつつ研究を展開させて欲しいです。

 今年度は、形態から進化・系統の筋道を推定する研究が目につきました。しかも、それらは質的に高く、将来性のあるものが多かったです。一方、数年前まで多かった機器を用いた生態研究(バイオロギング)についての応募は少なくなりました。ある意味、バランスがとれてきたとも言えるのでしょう。

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