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採択情報・選考総評

2018年度複合系総評

複合系選考委員会委員長

複合系は、代表的な研究分野によってテーマを分類し、それぞれの分野の専門に近い委員が分担して審査を行います。以下に、それぞれの分野の審査の総評を記します。

化学分野

  1. 化学の分野では、生体物質あるいは生体由来物質の機能の拡張を目ざす研究が多く、無機化学分野の研究は減っていく傾向にあります。しかし、下げ止まりの感があります。
  2. 全体に申請書の質が向上しています。競争の時代にあって、「自分自身の研究をアピールする力」が磨かれつつあると実感できます。
  3. 年齢制限内ではあっても充実した研究歴をもつ研究者の申請書には卓越した内容のものが多く、それらからは、「陽が当たりにくい研究」とか「恵まれない環境」という言葉とは無縁とも言える迫力が読みとれました。「すぐれているが助成を受けにくい若手研究者」を支援する方針に照らして、上記研究者の申請の採否決定には大いに迷わされました。
  4. 申請者が所属する研究室の規模や人的構成が研究の進捗に与える影響は否定できません。その点にハンディキャップをもつ申請者の中に、個性が光る申請書を提出したものがあれば、それを高く評価しました。
  5. 申請している研究について国内外の研究状況を記述する欄があります。ここには、漠然と流れを示すのではなく、自他の論文を明確に引用して具体的に動向を示すことが望ましいと思います。

生物分野

今年度の生物分野の申請書の内容で気づいたことを以下に整理してみます。今年度は、採択したいと考えた申請書が採択枠の2倍近くあり、採択枠から外すための理由を見つけるのに大変苦労したというのが実感です。以下に気づいた点を列挙します。

  1. 研究の目先の目的は良く理解できるのですが、その研究のより大きな目的がはっきりしない研究です。これは、特に研究室のテーマの一部を担当していると思われるものに多く見られました。例えば、他の多くの研究分野や環境問題の解決に役に立つと書かれているだけで具体性が明確でないのです。
  2. 生物学の基礎研究として非常に優れた研究計画がありましたが、生物系に応募してより近い専門家の審査を仰いだ方が良いと判断して最終的には採択を見送りました。“複合系”という特別枠を設けている以上、本研究助成の既存の分野とは性質の違いを意識してもらいたいと考えた次第です。
  3. 複合系の審査は、審査員の専門分野が必ずしも近いとは限らないので、専門用語(特に、同業者しか分からないようなアルファベットの省略語)には解説をつけて欲しいです。

人間科学分野

 数年前の単純な申請内容とは打って変わって研究の背景、目的、方法などについても生物系への申請書と遜色がなくなりました。アイディア勝負の申請だった、たくあんの研究が進展して、地域の人々の生活の知恵が、実は意味があると科学で証明できるようになることがわかってくると楽しみです。また公衆衛生の徹底や工学技術の進展により、高齢社会が実現したことは喜ばしいことですが、健康寿命が長い日本でさえも10年は介護が必要な寝たきり状態になってしまうという、なかなか大変な現代となっています。人間の動きも他の動物と同じく、ほぼ反射でなりたっているので、動けなくなるまで本人の自覚がありません。人間が立位を獲得して二本足で移動できるということは実は大変なことですが、そのような視点はまだ世の中に普及していません。つまり、人間のシステムにも正しい使い方があること、人間が行う直立二足歩行そのものについての研究や教育が必要であると思っているこの頃です。そんなときに「二次的水生適応に伴う鰭脚類の“歩行能力の 喪失”と“遊泳能力の獲得”の機能形態史」という申請課題がありました。期待します。外反母趾が子どもから増えているので早期発見を目指す、あるいは自閉症モデルマウスによるエピジェネティックな研究など、臨床に近い現場からの挑戦的な研究が申請されており、動くように進化してきたシステム、活動依存性に生きるように構成されている細胞システムは、使わないと問題が出るし、間違って使うとまた別の問題が生まれるわけですから、複合分野のマクロな研究にも、生命の単位であり、力学応答する細胞から考える見方が必要です。理科教育もその他の教育も、専門に分離するだけではなく、広くものをみることができる人たちを積極的に育成してゆく努力が必要で、本財団の先見性を生かす試みが期待されます。本年は、これらの研究をサポートし、社会の教育システムを支えて育てる役割を意識しました。大きく発展することを期待したいと思います。

 昨年の申請内容に倣い項目で分けると、6項目①運動応答メカニズム研究(10件:内容は多種多様で進化、楽器演奏、オートファジーと適応機構まで含む)、②筋細胞応答メカニズム研究(3件)、③栄養物の効果・開発(9件)、④脳の認識メカニズム・病態(7件)、⑤材料研究(2件)、⑥アイディア勝負の研究など相変わらず研究対象は幅広いですが、運動と認知、細胞メカニズムがクロスしてきて楽しみです。複合系は、個別の課題が様々であるのに加えて、「複合システム」を複合的に研究する試みが出てきているのは楽しみです。

 採択とは関係なく、意外性のあるテーマとして下記がありました。人は隙間を如何に通り抜けるか、ペダリング運動の感覚入力の処理機能アップ効果、授乳の母親へのリラックス効果、二次的水生適応に伴う鰭脚類の歩行能力の喪失と遊泳能力、乳酸は運動によるミトコンドリアの適応を増強するか、などです。研究者が申請する「意外性」の意味(生物学的)が理解できるものと、今ひとつつなげられない課題に分かれました。申請する研究課題が、より広い範囲の中で意味をもつべく位置づけられるかどうかが、採択の基本になったように思います。面白いだけでなく、インセンティブを理解してもらえるように書けるかが問題です。時代の変換期です。若い研究者の卵である申請者たちに、できるだけ自分の専門以外にも目を向け、自分の研究を多くの異なる分野の方々に理解してもらうための広い教養も同時に身につけて申請書を作成してくださることを期待します。

 素晴らしい内容であったのですが、研究費についての記述が、申請書の3枚目の金額と研究経費の支出計画の合計が大幅に異なっている、あるいは合計額が未記入で、なおかつ海外旅費が約半額でかつ内容なしという計画書は、申請者及び推薦者ともに、もう少し丁寧な対応をしてもらいたいと思います。

看護分野

 今年度の傾向は、高齢社会の健康問題を中心に慢性疾患患者に関わる食生活や運動・睡眠に関わる基礎実験や応用研究が多くみられました。なかでもユニークな研究として、認知神経科学的なアプローチによる人間の情報処理特性などの基礎研究、一方ではロボットを介在したリハビリトレーニングなどの効果検証が今日的な学術課題を思わせました。

 今後は、地域社会の健康管理を中心とした、地域住民同士のつながりや、それらを支える行政からのアプローチの評価など、日常生活を基盤とした実践的な健康社会づくりに向けた研究を通して、新たな健康・人・街づくりの政策につながるような研究テーマが期待されます。

地球科学分野・教育分野

 目立った野外調査:担当した申請書29件中19件は研究計画中に野外調査・野外観測を含んでおり、研究費として旅費が多く計上されています。特に地質学、地理学分野では顕著です。これは研究室予算や科研費など、他の予算では大学院生の使用が制限されており、自由に使えない事情が絡んでいて、笹川科学研究助成ではその制約が無く自由に使える点は申請者にとり大きな魅力となっているからと思われます。しかし同時に単独での野外調査も可能であるために安全面の教育・配慮は今後十分に検討すべき点でしょう。

 修士の申請者の申請書には未熟な内容が目立ちました。特に先行研究のまとめ・分析が十分になされておらず、現在の研究状況の中での自分の研究の位置づけがなされていないものが多くありました。修士レベルでは難しい要求かも知れませんが、指導教官のもとでの高度なレベルの研究と同時に基礎的な背景の勉強も行うようにして頂きたいです。記述されている研究内容は高度なものが多く、指導教官の指導力の賜と思われますが、基礎的な背景の理解を欠いた研究には危険性が伴うものです。

 採択された申請書のうちで博士課程、ポスドクのものはいずれも自分の頭で考えたことが申請書の文章から覗えるものであり、その点を評価しました。一方修士課程の学生のものは、どこまでが本人の理解で書かれたもので、どこまでが指導教官のものか、にわかには判断がつきません。今後審査の上で議論が必要と思われます。

その他の分野

 今年の申請で気にかかったのは、申請書の中で、研究成果が見通せないものが見受けられたことです。研究はまだ始まっていないので、結果が出ていないのは当然ですが、研究の実施項目を実施するだけでは、研究目標に達していないのではないか、と思わせる研究は、評価できません。すなわち、研究目標と研究実施項目は整合性が要求されます。逆にいえば、研究目標は、大それたものではなく、実現可能なテーマを設定する必要があります。そのためには、あらかじめ、研究成果の予想を立てておくことが必要です。申請書には、審査委員に結果の達成を感じさせる必要があります。 研究テーマが、いかに意義が深く、社会的貢献が大きいものであっても、その研究を達成させるには、アイディアが必要です。そのアイディアが申請書に示されていないと、審査委員は、この研究は果たして実現可能か、と思ってしまいます。申請書作成には、この点を留意して頂きたいと思います。

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