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公益財団法人 日本科学協会

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採択情報・選考総評

2023年度笹川科学研究助成総評

笹川科学研究助成事業委員会委員長

 笹川科学研究助成は、当時は助成団体への研究費申請のできなかった大学院生や研究生といった若手研究者を対象に1988年にスタートし、今回で36回目を迎えました。今では文部科学省の科学研究費(学術振興会が所掌)に大学院生を対象とする申請枠ができ、また、民間の一部でも大学院生向けの研究支援事業が進められるようになりました。しかし、大学院の修士課程や博士前期課程で申請できるのは、本助成以外は未だ稀です。本助成がこうした社会の動きのきっかけになっているとすれば、嬉しい限りです。

 今年度の申請は1,144件で、研究費の申請総額は14億452万円に上りました。厳正な審査を経て学術研究部門と実践研究部門を合わせて319件(採択率27.9%)が採択されました。学術研究部門の採択者228件の75.2%は大学院生で、残りは35歳以下の非常勤または任期付き雇用研究者の方々です。学術研究部門では、女性研究者が35.3%、留学生及び外国籍研究者が15.1%でした。こうした傾向は、このところあまり変わっていません。今年度で、笹川科学研究助成の助成総数は10,909件になりました。今や、国内で活躍しているすべての年齢層で助成研究者が活躍していて、大学や研究所の研究者のおよそ10人に1人がOB・OGといっても過言ではありません。36年間の助成研究費は、総額が約65億円にのぼります。これはひとえに日本財団のご支援によるものです。

 1997年には、海洋・船舶科学分野の支援強化を目指して学術研究部門に海洋・船舶科学系を新設し、2018年度まで22年間募集しました。しかし、分野的な偏りが感じられ、広範囲な海の研究分野を支援するため、2019年度に海洋・船舶科学系を廃止し、代わりに学術研究部門のすべての系に「海に関係する研究」のチェック欄を設けて募集したところ、従来の2倍以上の申請があり、研究分野も大きく拡大しました。以来、学術研究部門の全分野で「海に関係する研究」を募集しています。

 学生・契約研究者など、現行制度では研究助成の受けがたい身分の若手研究者に本事業はかなり周知されてきました。ただ、採択課題を見ると若手研究者に期待される萌芽性・新規性・独創性のある研究が必ずしも多くありません。昨今、指摘されるような「日本全体としての活力低下」があるとすれば、萌芽性・新規性・独創性のある研究自体の全国的な減少が懸念されます。加えて、学術研究部門の申請の52.8%が生物系で、複合系、数物・工学系、化学系の申請にも生物課題が含まれることを考えると、全体の研究申請に占める生物分野の割合は極めて高く、年々この傾向が強くなっています。この状況は本研究助成事業だけでなく、国内外の他の研究助成事業でも同じと聞きます。

 それぞれの専門分野の申請傾向については、分野責任者と各選考委員長の総評を見ていただくとして、全体に共通している点を三つ上げます。一つは、多くの研究が先鋭化していることです。研究成果を上げる点では素晴らしいことですが、ともするとその研究の位置づけを見失う危険があります。是非、少し引いた位置から自分の研究を眺める余裕を持っていただければと考えます。二つは、様々な科学・技術が開発された結果、無理矢理最新技術を使おうとする研究です。研究は必ずしも最新技術を使うことではありません。三つは、それぞれの研究分野、あるいは科学・技術全般を俯瞰した視点、または物事の考え方を変えることにつながりそうな研究課題が余り見当たらないことです。

 実践研究部門では、2013年度から学芸員・司書等が行う資料の調査・研究に加え、学校・NPOなどに所属する人たちが行う調査・研究を支援する問題解決型研究の二つの窓口で申請を受け付けています。2023年度の実践研究の申請は、学芸員等研究19件、問題解決型37件で、合計56件ありました。

 2020年の年明けから、世界的に新型コロナウイルス(COVID-19)が流行し、国内外での現地調査をはじめとして実験室やキャンパスへの出入りが大幅に制限されるなど、研究活動が著しい影響を受けています。審査では、制約された条件下での申請者の工夫に注目しました。

 研究助成を受けられた方には、翌年2月に研究完了報告を提出していただき、それらをもとにして各選考委員会で研究評価を行います。2007年度から、優秀な成果を上げた研究者には研究奨励賞が授与されています。学術研究部門の6系(生物系は生理・発生・分子・生花・遺伝などと分類・生態・農・水産などの2分野)と「海に関係する研究」、ならびに実践研究部門からそれぞれ2人ずつ合計16名が選ばれ、2023年4月21日(金)の研究発表会で発表をしていただき、賞状と副賞が授与されます。4年ぶりの開催となり、発表の様子は、後日、Web上でも映像として公開いたします。

 さらに、日本で活躍している笹川科学研究助成者(OB・OG)には助成後もいくつかの支援を行っています。一つは、2001年度に始めた海外での研究発表の旅費と参加費用の支援で、毎年58~83件に上ります。しかし、直近の2年間はCOVID-19の流行でほとんどの国際研究集会が中止され、ごく一部がオンライン開催となり、その参加費を支援しました。今後も、引き続いてオンラインを含め、国際集会での研究発表へのきめ細かな支援を進めてまいります。2020年度の海外研究発表支援20周年を期に、20周年誌「研究は海を越え、20年の軌跡」(A4版64頁)をまとめて出版しました。二つは、OB・OGと企業との関係の構築のための企業関係者を対象としたOB・OGの研究発表会の開催で、第1回を2019年9月に開催し、OB・OGと企業関係者の双方から好評をいただきました。以来、COVID-19の影響で研究発表会は開催できていませんでしたが、状況が改善してまいりましたので、2023年10月に第2回の開催を予定しております。三つは、OB・OGが進めている研究を社会に広く知ってもらうため、OB・OGを出版社に紹介して科学一般書として出版する支援です。松田英子東洋大学社会学部教授著の「夢と読み解く心理学」(ディスカヴァー携書)が2021年8月に出版されました。以上の支援を充実させていくとともに、その他の支援も随時進めてまいります。

 このように笹川科学研究助成事業は、日本国内で活躍する優れた若手研究者を発掘して長い目で支援し、日本をはじめとして世界の将来の科学・技術の発展に寄与してまいります。

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