海洋関連研究責任者
1.全体的な総評
- 全体的にレベルはとても高く感じられました。特にわかりやすい図が付けられており、的確に研究内容が記述されているものが多いように思います。一方で、一部仮説のはっきりしない申請書が見られましたが、研究を行うには仮説が重要であるため、目的にその仮説をなるべくはっきりと記述する必要があります。また、非専門家でありうる審査者がわかるように記述されていない、あるいは記述が不十分な申請書や、行う研究が把握しにくいものもありました。審査者は非専門家である可能性があることを念頭において、わかりやすい申請書を書くことが必要です。
- 純粋基礎科学から、海洋環境、水生生物の進化・生態、いわゆる水産学や医水連携、船舶を運航する者の健康に関わる研究まで本当に多様な分野から申請があって、海洋の分野の幅広さに改めて思いを巡らせました。これだけの多分野の中からの選考ですので、申請書を書く側にもそのことを考慮した書き方が要求されることになります。研究の目的と方法、そしてそのアウトカムについて、その内容や重要性が他分野の研究者にも伝わるように、丁寧な説明が必要なのだということです。申請書を作成する際に是非考慮してください。
- 海に関連した材料等を扱ってはいますが、海に強く関係しているというには記述が不十分な申請も散見されました。
2.個別の分野に関する総評
- 大目的に対して、ある現象や生物の生態を解明するという計画の場合、他のアプローチや生物種ではなく、本申請の内容が最適である理由を明記して、他と差別化したほうが良いと思います。また、研究室全体で実施する大きな計画は、本助成のスケールと整合性がとれません。(海洋生物分野)
- 全体的に申請書のレベルは高く、いずれも興味深い研究計画でした。また誤字なども少なく、十分な時間をかけて作られたものと評価できました。採択と非採択の差はわずかであり、文章の読みやすさなどが高評価のポイントとなりました。(海洋生物分野)
- ほとんどの申請書が良質に仕上がっていました。背景、目的、手法、計画などがきちんと書かれ、さらに仮説まで記された申請書もありました。近年は採択可能なレベルの申請書が多く、採択から漏れた中にも良質な申請があり、選外となってもがんばってほしいと思いました。日本からの研究成果の情報発信が衰えているとの指摘があります。小さな成果であっても学会などで発表するなり、査読付きのジャーナルに論文として公表することが習慣になると、研究はより発展すると思います。(海洋環境、地学、地球化学分野)
- 成果に期待できる研究内容の申請書が多く、補欠としたものはもちろん、選外となったものの中にも内容的に採択されたものと遜色ないものも少なくありませんでした。ただ、応募数が多く、採択率が低くなってしまっているなかで、採否の判断は難しくなります。一方、採択課題に比較して、インパクトが弱いと感じられる申請書も半数以上あり、それらは、例えば、研究目的や研究の必要性については比較的はっきりと記述されているのに対し、それに対処するための研究計画について具体的な戦略が明瞭でないもの、あるいは、方向性は具体的ではっきりしており、その方向で研究を進めればそれなりの成果が得られることが期待できるものの、独創性・意外性という点で訴える力がやや弱いもの、などの理由で採択に至りませんでした。(海洋物理関連分野)
- 計測技術やモデルの精度などが発達してきた現代において、新たな独自性・意外性を求めることのハードルが高くなってきている面はありますが、既に高度に発展した科学技術を背景として、新しい発想で、しかも具体的な戦略を立てて研究をデザインすることが期待されています。(海洋物理関連分野)
- 船舶海洋関係に寄与する研究が多く見られました。今後の研究展開次第では将来が楽しみな申請内容もありました。海洋はもとより、船舶についても将来に向けた取り組みが今後は必要となる時期なので、若手研究者がこの分野に多く、興味をもって参加することを期待し、次年度の審査に期待したいと思います。(海洋工学分野)
- 評価を担当した件数が限られているため全体の傾向について述べることは難しいですが、評価に当たった申請に関しては、先行研究の調査や評価が十分で無いにもかかわらず新規性や独創性を主張していて、研究の設計や計画に課題のあるものが散見されました。(海洋工学分野)
- 人文・社会科学系では、ここ数年間、以前より多めの件数が維持されていることが誠に喜ばしく感じられ、さらにこの系の申請件数が多くなることを期待します。今回の選考にあたっては、内容としては非常にレベルの高い申請案件が多く、絞り込むのに難渋したというのが正直なところです。この分野の意義が広く認識されることを願ってやみません。(人文・社会科学分野)
※「海に関係する研究」は、申請時に選択した研究区分の一覧に含まれます。