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公益財団法人 日本科学協会

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採択情報・選考総評

2023年度化学系総評

化学系選考委員会委員長

化学系分野はこれまで物理化学・無機化学・有機化学・高分子化学・生化学の5分野に分類できる内容の申請が一般的でしたが、最近は様々な新しい研究テーマの申請が見られるようになり、従来の領域をまたがった境界領域のテーマが増えていることに加え、化学と生物および化学と物理の境界領域ならびに医科学分野との関連性が強い研究テーマなど従来の分類では整理しきれないようになってきました。そこで今年度の総評では、研究申請の内容に関して高く評価できる点、改善した方が良いと思われる点、今後さらに期待したい点に分けて示すことにしました。

「高く評価できる点」

  • 化学系全体の申請に占める無機化学分野への研究申請は、今年も減少傾向にありましたが、申請があった研究テーマは多岐にわたっていると同時にオリジナリティが高く、真理の探究を目指した挑戦的な内容の研究申請が多く見られました。特に、有機物や錯体を利活用した種々の斬新な分析法・測定法や環境改善を目指した高機能性触媒の開発およびナノ粒子・ナノシートの精密合成法の研究などにレベルが高い申請が多く認められました。そのため、採否については本当に紙一重の差でした。今回採択に至らなかった方々は、是非さらに内容を充実させ、再チャレンジを目指してください。
  • バラエティに富む内容で、ケミカルバイオロジーの分野での優れた申請や、昨年も見られましたが円偏光関連の分野の申請が多く見られました。また、農学系や物理系に近い研究内容の申請もあり、今後ますます種々の分野との境界領域に位置づけられる申請が増えてくる傾向も感じられました。
  • 有機化学関連分野のうち、反応開拓や構造化学などの基礎有機化学の領域および非生物系の構造材料・機能材料を追究する有機機能化学の領域では、自己の見出した挙動の深掘りをする課題に加え、有機化学研究の本質とも謂える条件や構造の最適化に機械学習やデータ解析アプローチを前提とする基盤的な段階で学術領域を跨ぐハイブリッドな計画、分子の配列による特性発現手法の見直し、反応推進を光化学・電気化学的に行う「きれいな」物質変換を追究する課題、マイクロリアクターなど環境調和性の実現を目指す課題、希少遷移金属を用いない物質変換や金属代替有機分子触媒など、新たな化学の息吹が感じられました。情報科学やSDGsの知識が当然のものとなっている若い世代が、有機化学領域の経験の量に頼るアナログ的な手法を本質的に置き換え、何でも使って合成するという慣行にとらわれずに分子ごみ削減を第一義的な人類的制約として整合的に研究展開を考えるうねりは、研究の仕方を根本的に変える有機化学・有機材料化学研究のパラダイム変換を起こす期待を抱かせるものでした。
  • 本年度は、独創性に満ちた良質の提案が多く見られ、評価に大変苦労しました。環境負荷の低減を目指したり、希少金属に依存しない化学を志向したりするSDGsを意識した提案が増えた点は、本年度のユニークな点と言えるかと思います。また、領域横断的な研究計画も目を引きました。研究計画も慎重に練られている提案が多く見られました。
  • 有機化学、生物有機化学の分野で新現象解明・新しい物質や機能創成・新反応や新分析手法の開拓などを基盤とする、優れた研究提案が多数見られ、21世紀半ば以降の日本の科学技術先導への大きなさきがけを感じられました。研究助成に採択される件数には上限があり、採択に漏れた提案も甲乙つけ難かったことを付言しておきます。


「改善した方が良いと思われる点」

  • 研究費の使途に関し、設備などの備品類、旅費、または論文の投稿関係などの費用が経費全体に対して偏った割合になっている申請や文章のチェックが不十分な内容の申請などが散見されました。このような申請内容では、研究に対する計画の実施に懸念が感じられ、結果としてあまり良い評価が得られないことになりかねません。
  • 今回特に申請書(推薦状も含めて)に記載ミスが目立ちました。例えば、推薦者の名前が本人の名前になっていたり、推薦書が字数を超えて切れていたり、推薦書の一部が明らかに他機関への推薦書のコピペと思われるなどの推薦書のミスが見られたり、最終卒業学校に予定を書いていたり、来年度の身分が今年度と同じであったり、博士後期課程で年齢が20歳となっているなどの誤記載がありました。やはり印象が悪くなることは否めないので是非注意していただきたく思います。
  • 研究内容を盛り込みすぎていて一年の研究期間内に実施できるか、やや疑問に思える提案も散見されましたので、このような観点についても注意してください。


「今後さらに期待したい点」

  • 特に修士課程1年などの若い方の応募も多く、それ自体は望ましいことでありますが、どのような研究をやりたいのか、研究によってどのような夢を達成したいのかが感じ取れるような申請は残念ながらあまり多くなかったと感じました。確かに修士課程でも応募できるのが本研究助成の特色ではありますが、応募の理由にそれを強調するのではなく、このような研究によってこういうことを達成したいというように書いてもらった方がいいと思います。助教クラスの方の方がそのような点をうまく表現できているように思いましたので、若い方は是非先輩に意見を聞いてもらったらどうかと思います。
  • 研究テーマの具体的選定、遂行に加え申請書作成にも、一層の主体性が求められます。研究成果の発信も大切であり、筆頭著者として学術論文に公刊し、また国内外の学会などでより一層発表討論することを期待したいと思います。厳しい競争の中、本研究助成を受領された方は、今の大きな波に飲み込まれたり、研究室のプロジェクトの一部になったりしないよう、使途を明確にして活用されることを望みます。
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