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公益財団法人 日本科学協会

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採択情報・選考総評

2023年度生物系総評

生物系選考委員会委員長

 生物系の場合、共通して生命現象を対象としていますが、アプローチが多岐にわたり、しかもそれぞれが高度に専門化してきており、さらに申請件数が極めて多数のために、採択研究が特定の分野に偏ることがないように、分野を分けて審査を行なっています。

生理・発生・分子・生化・遺伝などの分野
 科学への熱意をベースに新たな研究内容を申請者が提案されたものは、エネルギッシュな若さを感じさせ、将来への明るい想いを抱かせてくれるものがありました。研究室のテーマをやりつつ自ら意外に思った結果を元に新たに仮説を立てて検証しようとするものなど、ワクワクさせられるものなど、オリジナリティーの高い申請を尊重しました。所属研究室が掲げるテーマの単なる延長線上の研究内容ではなく、裾野を広げるなど自分の研究課題の位置づけを示してほしいと思います。申請書を書く場合に、主語を省略して受け身を使って記述する例が多くみられたのは残念でした。その場合、過去の研究成果が申請者本人によって得られたとは判断しづらいのです。本助成では、学生といえども、本人の興味に基づく研究を助成の対象としています。研究の面白み、きっかけとなった発見、工夫した方法などを、自分を主語としてきちんと説明することが求められると思ってください。研究経験や実績では太刀打ちできない若い方であっても、実現可能性などの制約にとらわれず大きな夢を語ることができる特権を生かして欲しいと思います。
 近年のゲノム情報の急速な集積が少なからぬ影響を与えRNA-seqやNGSなどの外注に関する申請が多く、ある現象に目をつけてすぐに比較する対象同士でのRNA-seqなど次世代シークエンシングなどの解析に持っていくという内容も数多く見られました。申請の上限金額、経費の設定が先にありきで、残念なことに実験の外注、装置の使用料、論文投稿費用などへの支払いの必要性が論理的に説明されていない申請も数多く見られました。
 純粋に自身の好奇心に基づいた、壮大で長期的な研究計画を考えてほしいと思います。研究対象が異なっていても方法論が同じですと、新鮮味を感じることができず新規性という点で印象が弱いと感じました。
 より生体に近い実験系で標的とする分子を可視化し、in vitroの実験では知り得ない生体内での機能を突き詰めようという提案が増えていると思います。例えばGFP 標識した分子を細胞内で発現させダイナミクスを高速・高解像度で追跡する解析、相互作用したときに初めて蛍光を発するタグを付加して機能との関連を調べる研究、オプトジェネティクスの利用、摘出全脳標本を用いた解析、生体を模倣したマイクロ流体デバイスを用いる試みなどが組み込まれた申請内容がありました。プラズマを利用する光線力学の手法、赤外顕微鏡の開発、ラベルフリー計測が可能なイメージング技術などの提案も散見されました。生殖医療や発生工学的先端技術、初期胚発生と物理的要因など、複合的な解析方法の開発も認められ、近年の研究技術のレベルの高さが窺えました。ただ当然ながら技術が新しいということだけでなく、これらの技術で何が読み取れるのかを説明をして欲しいと思います。研究領域を超えて共同で新しい技術を開発することに踏み込むことにより、独創的な研究、更には大きなブレークスルーに繋がるものも期待したいところです。

分類・生態・農・水産などの分野
 新型コロナ感染が続いているにもかわわらかかわらず原生動物から脊椎動物まで様々な生物群を対象とした研究計画が提出されました。研究分野も分類、生態、行動、生理、発生、遺伝子制御、保全などに関する幅広いものとなっていました。日本人の男性研究者からの申請が多数を占めていますが、女性研究者や外国人の研究者からの申請も見られ、多様性が増加しているのは喜ばしいことです。また、本助成の趣旨に沿うべく、先端的な分野のみならず、基礎科学を進展させうる申請も複数見受けられたのは、とても心強く思いました。
 今年度の申請課題にみられた特徴を以下にあげます。1)農学分野の申請も多く、対象も作物や園芸品種などさまざまであることから、申請された研究を礎に実用化に至れば、農業への貢献が期待できるものもありました。2)単独の生物に注視するのではなく、菌根菌と植物の共生関係や微生物を対象とした申請、さらには腸内細菌に注目し、昆虫の種分化と植生の関係を見ようとする意欲的なテーマもありました。3)近年は、遺伝子解析など分子生物学の分野の技術革新により、これまで難しかった希少種や侵入種の探索、形態だけでは難しい分類群の系統解析、形態の発現などのより詳細な研究も増えてきています。4)小型データロガーでの動物行動学、もしくは定点カメラ(衛星画像)での動・植物・土地動態の研究、あるいは機械学習といった、現在のある意味主流となっている手法での研究提案が多数ありました。
 採択に至った研究は、いずれも研究の視点がユニークであり、研究計画もしっかりしており、実施計画と支出計画の対応関係も明確な内容となっていました。しかし、一方で、採択に至らなかった申請については、本年度の申請内容の傾向や特徴のまとめも含め以下に留意事項を示しますので、来年度以降の申請の参考にしていただければと思います。
 若い研究者の方々からの申請が多くなっていることは大変喜ばしいことです。しかし、研究経験の少ない学士、修士課程の学生の場合、申請者独自の発想ではなく、所属する研究室で実施している研究の一部を担うと思われる研究テーマ設定や研究実施計画が見られました。そのため、当人の研究者としての資質を評価する情報が限られており、せっかく素晴らしい研究計画を提出されても、実際に申請者自身の実行可能性の判定が難しいと考えられる内容がありました。また、現象の解明に長い時間を必要とする大きな研究目標は、申請者の研究姿勢を理解するうえで大変役に立ち、歓迎しますが、本制度の助成期間が1年間なので、その間の実施内容とそれによって期待される成果との関連性をはっきり示してください。さらに、研究分野が細分化される現在、その分野での研究の重要性と申請者の持つ関心は書けているものの、本助成の場合、その申請内容が客観的に見ても価値が理解できること、少し視野を広げて異分野の人でも、その価値を理解できるような申請書の書き方が大切であると思いました。
 本年度の申請に限らず、近年の申請では、生態学・農学・生物工学・行動学・系統分類学など多岐の研究において遺伝子情報を利用することが常套手段となっており、これは遺伝子解析が比較的安価に外注できるようになってきたことも大きな影響をしていると思えます。ただし、研究予算に関しては、遺伝解析の委託費用も当然必要な事項と思いますので、実際のサンプル数や、解析に必要な数であるか、きちんと研究計画との関連性の中で、予算を組み立てて欲しいと思いました。また、経費の中にサーマルサイクラーやインキュベーターなど、高額の備品の購入が含められていた申請も散見されたのが残念でした。当分野の研究では、野外調査が研究の基礎をなすものも多く、それに関わる費用も当然必要とされるものと思います。しかし、その調査費用がどのように算出されたのか(調査計画との整合性)が分かりにくいものも多く見られました。
 今年も外国の生物を研究対象にしている申請がありました。生物多様性条約のABS(Access and Benefit-Sharing)に関わる法令遵守の必要があることは、当然のことですが、自身の研究課題において実際に生物多様性条約のABSをどのようにクリアーするか(実際には、申請時にクリアーされていることが好ましいです)が示されていないものがありました。さらに、注意していただきたいのが、ABSへの対応は海外におけるフィールドワークでの研究対象生物ばかりではなく、国内のペットショップから入手した(あるいは継代飼育した)生物を研究に用いる場合でも適切に対応していなければなりません。ABSに適切に対応していないと、大切な研究成果を論文として発表できなくなりますので、申請者応募者のみならず、その指導的立場の方は申請前にABS対応を適切に行っていただければと思います。

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