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公益財団法人 日本科学協会

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採択情報・選考総評

2023年度複合系総評

複合系選考委員会委員長

 ようやく、コロナ感染が収束し、落ち着いた研究環境がもどったのは、うれしい限りです。今年度も、意欲的な研究計画が、多数、申請されました。複合系にも、いろいろな分野があり、分野を分担して、審査を行います。各分野の総評を以下に記します。

生物分野
 極域科学から医学、応用工学的な幅の広い分野からの応募があり、申請の相互比較が難しい側面がありました。現在の地球環境の問題解決に迫ろうとする研究、ユニークな着想の申請もありましたが、研究の進展させ方に少々難を感じるところがあり、採択に至らなかった課題が複数ありました。残念に感じる一方、現在主流の分析・解析手法を適用した研究には、申請者自身の解明したい科学(哲学)上の目的が希薄となってしまっているものも見受けられました。

化学分野
 複合系の申請の中で化学に関連するものは、生体成分の機能の計測法やその制御・活用などを取り上げるものが多く、昨年の申請と比較すると、ますます深化していることが認められます。取り上げられている生体成分は、ペプチド、タンパク質、酵素、DNAから細胞まで多彩です。生体成分絡みの複合系を取り上げる申請書の年齢を見ると、20代半ばがほぼ半数を占め、若手研究者のこの分野への関心の強さがうかがえます。
 なお、「化学を通して生体機能の制御に関する研究」の分野の申請の理解の深さは、申請者が属する研究機関・研究組織のスケールや研究者の層の厚さなどに大きく依存します。若手申請者の中には、指導研究者の指示をうのみにして研究する者がいることが気になります。

看護分野
 本年度の応募研究は、科学の王道であるロイヤルサイエンスの手法に基づき、過去の研究実績を基盤とし新たな事象を究明しようとするものと、一方で個別の人間生活の複雑な行動的側面を一般化しようとするものに分かれていました。後者の研究計画は、荒っぽいが、未来志向の研究を思わせる新鮮さやオリジナリティーを強く感じました。審査結果は、科学の王道に沿った研究に軍配が上がりました。生活する人間を対象とした研究は、斬新で興味深い仮説が存在する一方で、一般化しにくく、計画の完成度においてもマイナス面が多いのです。しかし、社会生活者として複雑で個別性の高い人間を対象とする研究においては、未開拓の部分が多く、新たな研究手法の確立が進められることの重要性を強く感じました。単にユニークで新規性を感じるのみでなく、それらの研究も新たな分析手法が確立され、目に見える形で評価されることになるでしょう。科学のパラダイムの変曲点に臨んで、今回残念な結果になった若手研究者の方々には、現在のテーマの先進性を忘れずに、未来に向けた新時代の道行きとなる研究に結び付けられるという信念を貫いてほしいと思います。

地球科学分野
 研究の分析結果や解析結果がどのような意味を持つものか、申請書の中で十分に解説されてないものが散見されます。何のための「分析・解析」なのか、「分析のための分析」になっていないのか、もう一度振り返ってほしいと思います。分野を異にする人が読んでも伝わるような、広い視野に立った研究の意義の解説は、申請書原稿に留まらず、研究全般において重要です。今後研究成果があがったときにも、このようなことを心掛けて社会に発信してほしいと思います。

人間科学分野
 複合系への研究申請にも、基礎生命科学や生物学の基盤が求められます。細胞が生命の単位であり、多細胞生物では、自らの生きる環境を細胞外マトリックス分泌により構築します。さらに、自分が取り組む研究課題が生命現象を解き明かすものであるなら、生物現象を解明するときの基本的な要点としての生命を生んだ場である1Gの地球重力、地球自身の自転と太陽との関係から生まれる時間を考える必要があります。前者では研究が遅れているメカニカル応答する細胞・個体(身体)システムを背景として考える必要があります。人は多細胞・脊椎動物です。他の動物と何か異なるのか考えた上で、申請書を作成してほしいと思います。
 かなり前から理学療法学からの申請が増えています。理学療法は、理学療法を必要としている患者を治療しますが、患者が自ら適切な運動をする必要があり、運動は筋骨格系のみならず脳神経系と連動します。しかも運動は随意筋である骨格筋の収縮が必要なので、本人が自ら行うのが基本です。その運動の中核となる要点はバランスであるのは、1Gの重力場で生まれたシステムであり、とくに人は直立二足歩行を進化させたので、そのアンバランスは各種関節症を引き起こすのみならず転倒問題にもつながっています。しかし、120年までの寿命があるという人に対する基本的な教育がなされていません。人は、動ける限り、自身の姿勢や運動には気をつける動機がありません。五感により外界を認知して行動しますが、実は骨格筋も腱も感覚神経細胞による制御系をもっているので、鍛えることができるはずです。学校教育の見直しと、そのための研究が必須と思います。今回の申請で内的焦点と外的焦点による立位バランスと脳波の違いを見る課題や、他動的脳内運動イメージを、本人が増強するための方法開発に挑戦する研究がありました。どのような研究結果を得るのか、期待したいと思います。本来、日本には、武術や武道が盛んで、身心を一体化するスキルがあります。しかし、そのような研究課題をまだみたことがないのは残念です。さらには、メカノバイオロジーの研究が進み、細胞のみ、あるいは細胞の動的な挙動を医学につなげる研究はありますが、これも身体や運動とつなげる研究は本当に遅れています。笹川科学研究助成に、挑戦的な課題が応募されることを期待したいと思います。

その他の分野
 人体の特定の生理現象を定量的に測定する方法の開発に関わる研究テーマに対する申請が多数ありました。その多くは、病気や医学に関係するものです。複合系のテーマとして適当であるかどうか、やや疑問に思いました。確かに、生理学や医学と、工学は、異質なものです。その意味で、測定装置の開発は「複合系」といえなくもありませんが、そのように考えれば、「病気の治療」の多くは複合系になってしまいます。
 医学関連の研究は、大学の研究室ごとに、研究テーマがかなり細分化されています。そのため、ひとつの研究室から申請される複数の研究テーマは、(広い目でみると)似ているものが多く、研究テーマに優劣を付けることが難しいのです。また、申請者の独創性が、どこまで、研究に行かされているのか、申請書を読んだだけでは分からないものがあります。
 このような事情で、採択と不採択の基準は、かなり微妙です。本研究助成では、不採択になった研究テーマに、不採択になった理由を知らせますが、その理由は、かならずしも、絶対的不採択の条件ではありません。すなわち、不採択の研究テーマは、常に、不採択とは限りません。今年の申請で、運悪く、不採択になることもあるが、同じ研究テーマが、次の年に採択されることもあります。従って、ぜひ、この研究テーマで、研究をやりたい、という研究テーマであれば、不採択でも、諦めずに、次の年に申請していただきたいと思います。

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