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公益財団法人 日本科学協会

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採択情報・選考総評

2023年度実践系総評

実践系選考委員会委員長

 2023年度の実践研究計画の選考結果を踏まえ、次年度の申請の際に参考にしていただきたい点について以下に記します。

本年度の全体傾向と特徴
 実践研究部門は、毎年、実践研究A「教員、NPO職員が行う問題解決型研究」と実践研究B「学芸員・司書等が行う調査・研究」に分けて募集しています。昨年に引き続き本年度も今日的な社会課題(文化財保存、環境問題、地域づくり、生涯学習支援、高齢者保健医療、ICTを利用した教育活動、特別支援教育など)の解決を目指そうとする意欲的な研究や、コロナ災禍で表面化した課題に光を当てた意欲的な研究の申請がありました。
 今後さらに、実践研究の多様性を尊重しつつも、本研究助成において申請が期待されている分野・課題・研究方法を引き続き追究していただくことが重要であると思います。そのこと自体が、我が国における実践研究の深化への貢献につながると考えるからです。

 本年度の実践研究部門Bの「学芸員・司書等が行う調査・研究」の申請件数は、一昨年度と比較して3件、昨年度と比較すると8件減少し、計19件と少な目でした。申請者については、博物館に所属する者の応募が最も多く、動物園・天文台を含めた自然系博物館から8件、美術館を含めた人文系博物館から5件の応募がありました。そのような中、今年度は図書館から2件、近年応募が無かった公民館から1件応募があったことは特筆点と言えます。
 その一方で実践研究部門A「教員、NPO職員が行う問題解決型研究」では、本年も学校教育現場における授業研究の延長線上の枠組に閉じたもの、またこれは学術研究としての助成を別途追求した方が適切とみられるものが見られました。また、研究の社会的波及効果や期待される実践的成果に関する記述が具体的でないため、その点に関するプログラム評価が難しいケースが見られ、この点での改善も引き続き必要だと考えます。

実践研究か学術研究か
 研究計画も優れたものが多い印象でしたが、一方で、実践研究部門の助成の方針と特徴の理解不足や実践の場を持っている申請者でも「実践を通じて課題解決を目指す」というよりも課題そのものを研究する研究計画で、「学術研究部門に申請されるべき研究」も見受けられました。
 分野別に見ると、例年は歴史学の分野からの申請が少なかったのに対し、本年度は新しい分野として、芸術系、天文学系、アーカイブズ学・公文書館系の申請もありました。
 昨年度までの博物館等からの申請テーマは、資料や標本の研究をベースとしたものが大半を占めていましたが、今年度は展示や教育活動と関わりの強い博物館学的研究テーマが目立ち、5件を占めています。これに加え、保存科学的研究も1件の応募がありました。こうした背景には、2022年度にICOM(国際博物館会議)による博物館定義の改訂があったこと、2023年4月から改正博物館法が施行されることなどがあるのかも知れません。本研究助成で目指す社会問題の解決という視点に合致するので、今後もこのような傾向が続くのが望ましいと考えます。また、改正博物館法でも、他分野との「連携」が重要なキーワードとなっているため、関連団体と連携しながら、上記課題の解決を図ることが求められるのではないかと思います。
 近年の著しい情報技術の普及・発達を踏まえ、収蔵資料のデジタルアーカイブ化の推進が謳われるようになっています。本年度の申請にあっても、資料のDX化や各種学術情報のデータベース化に関する申請が見受けられました。今後も当該分野は重要な研究テーマとなり得ますが、それだけに、デジタル情報の具体的活用方法とその効果にまで踏み込んだ申請が求められるのではないでしょうか。
 異なる組織、教育施設、医療・福祉施設、博物館・図書館・公文書館・公民館・大学・ボランティアなど様々な立場の人々が協働しながら研究を行い、社会問題の解決に向けて新しい視点を提起することは本研究助成の趣旨ですので、申請時にはその点を踏まえていただければ幸いです。今後、博物館現場に加え、図書館現場や公民館現場からの申請の増加にも期待したいところです。

研究予算計画
 実際、なかなか研究費が得にくい現実が確かにあると思いますが、「第一線で活躍する専門的立場にある者を対象にした、数ある民間研究助成の中でも他に類を見ない制度」「ますます多様化・複雑化する社会が生み出す新しい課題に向かって果敢にチャレンジし新しく途を開くような研究」という本研究助成の趣旨をはじめにご理解いただいた上で、より広く、より地域的・社会的・現代的な文脈に即した申請が増えることを期待しております。
 もちろん、研究の価値は多様な基準から評価されてしかるべきです。ただし、ここでは本研究助成がもつ上記の社会的意味合いに照らして評価がなされていること、またそうした評価を受けて助成を獲得する研究が増加することが社会的な価値を持つことを強調しておきたいと思います。
 具体的に申し上げますと、研究計画に対して研究費の使途が不明確な申請も散見されます。例えば、研究費のほとんどが、論文投稿費用や学会参加費、または学会参加のための旅費、図書費であれば入門書のような書籍や研究にどのように関連するのか明記されていないケースがありました。また大学時代に世話になった恩師の論文をまとめるための印刷費を計上している申請者もありました。
 海外調査の旅費も研究計画になぜその調査先を選定するのか明記されていないケースや、海外調査はするけれども、研究内容に記載されていない連携先の博物館で研究成果を発表予定するなど、研究背景や文脈が読み切れない申請書もあり、単なる思い付きや物見遊山的な海外視察と見えるようなケースがあったことは非常に残念です。調査のための旅費・交通費は当然に必要な費用ではあっても、その研究テーマに則して何故そのフィールドをあえて調査するのか明確に書かれていない計画書も散見されます。当然ですが、そういう申請に対しては助成することは絶対にありません。
 また、初めて実践を始めるために必要だとされている汎用的な機材や消耗品を助成金で賄おうとする申請では、計画書通りの実践研究の遂行に懸念が残るものもありました。研究助成を申請される際には、本助成制度の趣旨を今一度確認され、ご自身の研究計画との妥当性を吟味していただきたいと思います。

最後に
 本年度はいずれの申請内容も興味深く、申請の中には、本研究助成の理念・趣旨から見て、成果を大いに期待したいものもありました。様々な博物館や市民と連携した申請も多かったこともひとつの特徴と言えるでしょう。
 「研究」というには調査等の方法論がナイーブ過ぎて、さしたる知見は得られないのではないかとみられるものあったことも事実です。申請前に、所属組織等において十分精査の機会を持つこともぜひご検討いただきたいと考えます。助成申請の段階にまで至っていないのではないかと見られる案件もあり、まず基礎となる予備的研究を経て申請に至るという判断も考慮に入れていただければとよいと考えます。
 この点では、推薦者の皆さまにもさらなるご指導・ご助言をお願いしたいところです。
 多様化・複雑化する社会が生み出す新しい課題に向かって「果敢にチャレンジし新しい途を開くような研究」という本研究の助成趣旨を鑑み、より広く地域的・社会的・現代的な文脈に即した申請が増えることを期待しております。コロナ禍における厳しい状況が続く今日だからこそ実践研究を進め、「新しい課題」へ挑戦していただきたいと願っております。

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