実践系選考委員会委員長
2025年度の実践研究計画の選考結果を踏まえ、次年度の申請の際に参考にしていただきたい点について以下に記します。実践研究部門は、毎年、実践研究A「教員、NPO職員が行う問題解決型研究」と実践研究B「学芸員・司書等が行う調査・研究」に分けて募集しています。
研究課題と予算計画の重要性
本年度は「研究課題の明確化」が十分に検討されていない申請が例年になく多く見受けられました。研究上の整合性やそれに伴う予算計画が不十分なものも多く見られました。来年度の申請にあたっては、研究課題の明確化と適切な予算計画を心掛けるよう努めてください。
各種理化学機器の技術的進歩により、現在では安価な機器でも同等の成果が得られるようになりました。本年度の申請では、安価でありつつ画期的な成果を期待し得るものが目立ちました。今後も、研究内容と機器購入の予算、機器使用の工夫などが求められます。
その一方で、助成金の使用制限が比較的自由であると誤解し、学会参加費や論文投稿料に申請額の大部分を計上しているケースも見受けられました。研究の趣旨や助成金の趣旨を理解し、今一度、再確認してください。
また、研究内容や研究計画に記述されていないにもかかわらず、ほぼ全額を海外調査旅費として計上している申請もありました。研究計画と予算の整合性を十分に検討していただきたいと思います。
研究の評価基準と申請の質の向上
これまで「実践研究」の位置づけや意味合いが申請者の皆様と共有されつつあるように思いますが、今後さらに実践研究の多様性を尊重しながら、本助成において期待される分野・課題、研究方法を追究することが重要です。学校教育における授業研究の延長線上にある枠組みや限定された対象に閉じた研究が見られるため、社会的波及効果や実践的成果について具体的な記述が求められます。
助成側からすれば、本助成の趣旨に即した、広く地域的・社会的・現代的な文脈に基づく申請が増えることを期待しています。研究の価値は多様な基準から評価されるべきですが、実践系の研究助成の場合、研究の社会的意義に照らして評価が行われることを強調します。
所属組織と推薦者
推薦書に関しても、推薦者が申請書を本当に読んで推薦したのか疑わしいものが見受けられました。中には、申請者本人が推薦書を書き、推薦者が承認したと思われるものも見受けられ推薦書システムのあり方を再考せざるを得ないように感じました。研究方法がナイーブ過ぎると期待される知見が得られない可能性があるため、申請前に所属組織で十分な精査を検討してください。基礎研究を経て申請に至る判断も重要です。推薦者の皆様にはさらなる指導・助言をお願いします。特に、直接・間接を問わず、人権にかかわる研究では研究倫理が求められており、望ましくは助成金申請の前に、研究倫理委員会からの承認を得ていたほうがよいと考えています。
今後の展望
本年度は文書館の教育普及に関する申請が複数見受けられ、これは従来にはない歓迎すべき動向です。しかし、文書館と博物館の相違性が不明瞭な申請が多く、文書館ならではの普及事業の在り方についてさらなる精査が求められます。
また、自然標本に関する申請も多く見られました。各申請で標本製作過程の学術的画期性は認められましたが、その社会還元の在り方や市民連携等の視点が弱いという問題がありました。
実践研究部門の学芸員・司書等が行う調査・研究における申請件数は、2022年度をピークに減少傾向にあります。本年度は大学・研究機関を含む自然科学系分野からの応募が中心でしたが、一部、図書館等のアーカイブズ系からの応募も見受けられました。特に地方の小規模自治体や指定管理の博物館が財政難に直面していることが読み取れます。今後は図書館や公民館現場からの申請増加に期待しております。